2013年11月07日

Neurology Today誌
2013年11月7日- 13巻-号21 - P 41-42
DOI:10.1097/01.NT.0000438154.97138.d6

心臓画像検査がレビー小体型認知症の診断に役立つと研究が示唆
スーザン・フィッツジェラルド

<記事要約>
レビー小体型認知症(DLB)疑い(possible)例がDLBほぼ確実(probable)例に進展するかどうかを心臓画像検査は脳SPECTスキャンよりも良く予測したと研究者たちが報告した。

<記事本文>
心臓画像検査のうち心筋シンチは米国においてDLB診断目的としては未承認であるがNeurology10月11日オンライン版に掲載された最新の論文が示唆するところによるとDLB疑い例がほぼ確実例に進展するかどうかを予測するための優れたツールとなりうるとのこと。
研究者たちの報告によると、心筋シンチを使用してDLBに関連した交感神経系の障害を検出することによって患者がDLB疑い例からDLBほぼ確実例に進展するかどうかを脳血流単一光子放射断層撮影(SPECT)よりもより良く予測できたという。
心筋シンチは放射性トレーサーを心筋毛細血管系を経て心筋細胞内に移動させ局所心筋血流と細胞生存率を測定する検査であるが、日本ではDLBの診断目的で使用され欧州でもそれに準じて使用されているのにさまざまな事情から米国では未承認である。
「DLBの初期段階ではDLBの中核症状があまりに緩やかで医師が気付かないことがあるので、診断は困難になりえます」研究者の一人である小田陽彦は本誌への電子メールでそう述べた。
DLBはアルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)や統合失調症と混同されるかもしれない、特に患者が認知機能障害と幻視を持っているらしい場合には、と彼は語った。論文中では「変動する認知機能、幻視、パーキンソンといったDLBの中核症状が典型的に明らかに存在する場合、ADからDLBを区別するのは簡単だが、DLB 患者の全てが早期のうちからこれら中核症状を明らかに持っているわけではない」と指摘されている。「DLB早期においてはI-MIBG心筋シンチは臨床的に有用であると思われる」と著者らは結論付けた。
研究方法論
研究者たちはDLB疑いの94例を1年間追跡し、どの患者がDLBほぼ確実例に進展したのかを調査した。診断は標準的な診断基準に基づいて行われた。全例に放射性トレーサーであるI-123 メタヨードベンジルグアニジン(I-MIBG)を用いた心筋シンチ及びN-イソプロピル-P-1231-ヨードアンフェタミン(123I-IMP)脳血流SPECTスキャンが施行された。 一年間のフォローアップ後、研究者らは全例を臨床的に再評価。どの患者がDLBほぼ確実例の診断基準を満たしたかを調査した。すなわち、進行性認知機能障害に加えて変動する認知機能、幻視、パーキンソンという3つの中核症状の有無を調査し、うち一つがあればDLB疑い、2つ以上あればDLBほぼ確実と診断した。
「被験者群における脳血流SPECTの陽性適中率(PPV)は0.45であった。被験者におけるI-MIBG心筋シンチのPPVは0.88だった」と小田さんは語った。研究は日本の兵庫県立姫路循環器病センターで行われた。
この最新の論文でDLB疑い例がDLBほぼ確実例に進展するかどうかの予測因子として心臓画像検査の方が脳SPECTスキャンよりも優れていることがわかった:I-MIBGの閾値をベストに設定した場合、特異度0.88、感度0.94、陽性適中率0.88となった。

<識者コメント>
この最新研究に関与したある編集者は本論文を「MIBG心筋シンチの潜在的臨床的有用性を明確に強調した刺激的な論文」と評した。しかし編集部著者であるロンドンのキングスカレッジのクリーブ・バラード氏及びミュンヘン工科大学のティモ・グリマー氏らは本発見を検証するためにさらなる研究が必要だと述べた。
両名は「“コンバーター“群でより多くの幻視がみられたが、統計的な差が無かったため論文中では考察されなかった。しかし、永続的な幻視を予測因子に加えたりAD患者の幻視に強く関連する白内障その他眼疾患や老眼による視力低下がない状態での幻視に着目したりすることによって予測値が改善可能かどうか追加で検討する価値があるだろう」と指摘した。
両名は続けた:「“ノンコンバーター”群で認知機能の変動がより多くみられた点も興味深い。認知機能の変動はしばしば誤診されるという過去の文献を支持し、認知機能変動のために確立された評価方法や確立された注意機能評価を用いることの重要性を強調しているといえるだろう」
本誌が取材した専門家たちはこの研究結果は有望に見えるものの米国でDLB診断目的のためにMIBG心筋シンチが承認されるかどうかは疑わしい、なぜなら米国の保険会社は通常認知症関連の適用で保険金を支払うことはないからだ、と述べた。さらにDLB診療における本研究結果の意義は必ずしも明確ではない、とも述べた。
「患者が糖尿病だった場合、あるいは放射性リガンドに干渉するような薬剤を投与されている場合には、検査結果の解釈は困難になる」と本研究には関与していないロチェスターのメイヨークリニック神経学教授のブラッドリー F ボーヴ氏は本誌に語った。
ボーヴ氏は、多くの患者の症状改善に役立つアセチルコリンエステラーゼ阻害剤などの適切な治療を開始することができるので時機にかなった診断を行うことは重要だと述べた。
正確な診断は、今後の疾患の経過を理解したいと願う患者と介護者のためにも重要である。「複雑な神経変性疾患の今後の見通しを知ったうえで将来の計画を立てること」を患者とその家族ができるようにする必要がある、とボーヴ氏は語った。
アメリカ国立衛生研究所の国立神経疾患・脳卒中研究所の臨床神経心臓課主任のデビッドS.ゴールドスタイン氏は、米国の国内臨床試験が無いこと及び保険の支払いが無いことが米国内で心筋シンチグラフィがDLB診断目的では普及していない理由だと指摘した。
 DLBは典型的には脳疾患と考えられているが実は体内の複数の系に影響を及ぼす全身病である。ゴールドスタイン氏は本研究が心臓交感神経の障害と、パーキンソン病(PD)及び純粋自律神経機能不全症及びDLBとの間の関係を明らかにしたと述べた。PDの事例では運動障害が明らかになる前から交感神経の損傷が発生することがありうる。

 ゴールドスタイン氏は、レビー小体を構成するタンパク質であるα-シヌクレインが脳細胞への損傷を引き起こす機構を研究している。2012年にJournal of Neuroimaging誌で発表した論文中でゴールドスタイン氏は「心臓交感神経分布の画像検査は、神経内のα-シヌクレイン沈着に関連したカテコールアミンの除神経を検出することによって、他の認知症からDLBを鋭敏かつ特異的に診断できるかもしれない」と書いた。

ニューヨーク大学ランゴーンスクールの精神•神経学教授のジェームス•ガルビン氏は、レビー小体病(LBD)の診断の難しさを指摘した。 便秘、注意障害、日中の眠気、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder、RBD)、抑うつなどの症状は、DLBではなく他の病気の症状のように見え得るので、患者が正しい診断を下される前に様々な科を受診するのは珍しくない、とガルビン氏は述べた。彼はLBDは画像検査ではなく臨床診断で診断されるのが典型的だ、と言った。
「現在はDLB特異的なMRI変化のパターンはない。MRIは他疾患を除外するのには有用だがDLB診断を確定させることはできない」とガルビン氏は述べた。
ドーパミントランスポーター・スキャン(DaTscan)は本態性振戦とパーキンソン病を区別するために使用される脳画像検査であるが、DLB診断のための使用は米国で承認されていない、と彼は言った。心筋シンチグラフィとの比較のために日本の研究で使用されていた脳血流SPECTスキャンは、DLBの除外診断および確定診断をするのに十分な情報を提供しないかもしれないとガルビン氏は言った。

<参照文献>
Oda H, Ishii K, Terashima A, et
al. Myocardial scintigraphy may
predict the conversion to probable
dementia with Lewy bodies. Neurology
2013; E-pub 2013 Oct. 11.
• Ballard C, Grimmer T. Editorial:
Improving diagnosis of possible DLB.
Is there a role for MIBG myocardial
scintigraphy? Neurology 2013; E-pub
2013 Oct. 11.
• Goldstein DS. Cardiac sympathetic
neuroimaging in dementia
with lewy bodies. J Neuroimaging
2012;22(2):109-110.
• Research archive on myocardial
scintigraphy, Lewy body dementia:
http://1.usa.gov/HaWRbU
• McKeith IG, Dickson DW, Lowe J, et
al, for the Consortium on DLB. Diagnosis
and management of dementia
with Lewy bodies: Third report of the
DLB consortium. Neurology 2005;
65(12):1863-1872.
• Neurology archive on dementia with
Lewy bodies: http://bit.ly/1c9X38X